理事長挨拶(2012年度)
2012(平成24)年7月に東京工科大学において設立総会を開催し、総会参加者により日本公衆衛生看護学会の設立が承認されました。設立にあたっては、354名の方々が発起人として名を連ねてくださいました。
本学会設立の背景には、保健師をはじめとする公衆衛生看護従事者が集い、実践の交流と学問の発展を目指したいという強い思いがありました。全国地域保健師学術集会は2010(平成22)年に富山での開催が最後となり、保健師の実践の交流の場がなくなっていました。2012(平成24)年に日本保健師連絡協議会が主催で第1回日本保健師学術集会が開催されました。本学会の設立はこれらの経緯を受け、その志を引き継ぐものであります。学会の設立に当たり、日本保健師連絡協議会から多くのご支援とご協力を賜りましたことに厚く感謝申し上げます。
一方、保健師教育課程においては2009(平成21)年保健師助産師看護師法の改正により教育年限が6か月以上から1年以上へと変化しました。保健師助産師看護師学校養成所指定規則で修了に必要な単位が23単位から28単位となり、基盤となる学問の名称が地域看護学から公衆衛生看護学へと変更されました。基礎教育の変化は、公衆衛生看護学とは何かを考える再考の大きなきっかけとなりました。
旧来の公衆衛生は感染症と母子保健のイメージでした。しかし、高齢化が超高速で進展し、経済活動が地球規模で展開されるグローバル化の時代において、社会格差が拡大し、国民の健康や生活も格差が見えてきました。虐待や新興感染症など健康課題は複雑で解決が困難な課題が増加しています。相次ぐ大震災や自然災害、人為的災害の予防や被災後の支援活動も大きな課題です。健康問題だけではなく、すべての人々が健康で安全な生活を送るためには、健やかな子どもの成長発達から始まり、生活習慣病への対策、豊かな高齢期の生活へと、健康の保持増進、予防も重要な活動です。
公衆衛生看護は社会を見つめ、地域の人々の力を組織的に活用すること、社会のシステムを構築すること、そのシステムをネットワークでつなげ、円滑に運用できるように調整することを行ってきました。緊縮財政下で、国民の健康を守るためには、活動の成果を明確化し、より効率的効果的な活動が求められています。実践と理論の結合が効果的な実践となり、それらの実践の交流が地域にフィットした実践を可能にすることでしょう。また、教育における実践の場と教育の場の十分な討論が、保健師の次世代を育てていきます。実践を支える研究のためにも、現場と研究機関の連携がますます重要になります。日本公衆衛生看護学会の目的は、1)公衆衛生看護学、並びに公衆衛生看護実践の発展、2)保健師活動、並びに保健師教育の発展・開発、3)公衆衛生看護学の研究の推進、4)社会の安寧と国民の健康増進に寄与することです。
公衆衛生看護の実践、教育、研究の場で働く保健師、公衆衛生看護に興味と関心のあるすべての人々により、公衆衛生看護の発展と誰もが暮らしやすい社会の創造を目指しましょう。
2012年
日本公衆衛生看護学会
理事長 佐伯 和子