一般社団法人日本公衆衛生看護学会

第3回 私できてますか実習指導~臨地実習受け入れの悩み~

第3回目は、臨地実習の受け入れの悩みを取り上げます。実習指導を担当して、これでいいのかな?大丈夫かな?と悩んだことはありませんか?

保健所で学生実習を担当しています。学生には、訪問や事業の一場面しか見てもらえません。保健師の活動を理解しているのでしょうか?
教科書で学んだ「個別支援から集団支援、そして地域づくりへ」といった保健活動の展開を実習中に体験することは難しいかもしれません。しかし、訪問や事業の一場面を通し、活動の意義を考えることで学びは確実に深まります。学生と振り返りの時間をもつことが大切です。事業の経緯や経年変化などを学生に見せてもいいです。現場の保健師から聞く保健活動の語りが、学生の理解に繋がっていることがわかると思います。
学生を同行し、家庭訪問できる対象者が見つかりません。
通常の業務の中で保健師が行っている家庭訪問は、虐待やDV(家庭内暴力)など複雑な事情があるご家庭が多いため、「学生さんと同行訪問できる対象者が少ない」という話をよく耳にします。学生を同行するのは、困難な問題が進行中の家庭でなくても良いのです。保健師の長い支援経過の中で、今は支援者とも信頼関係ができ落ち着いて生活されている家庭でよいのです。そこに至る経緯をケース記録の中から読み解くことも大きな経験となります。また地図で家を調べ、訪問のアポイントを取り、あいさつをして玄関をくぐるといった体験一つ一つが学びとなります。
学生のために行かなくてもよい家庭訪問をするということですか?
わざわざ、学生実習のために対象者を広げるという意味ではありません。通常業務の中でも、保健師が関わり、気持ちが整理できたり、一時落ち着いているケースに、「様子うかがい」として家庭訪問することもあります。落ち着いている時の対話も援助関係を成立させる一環です。そのような時には、保健師との信頼関係もある程度できているでしょうし、学生を同行する了承も取りやすいのではないでしょうか。
養成機関(大学等)の指導教員と現場の実習担当者との役割分担に悩んでいます。
学生が限られた時間の中で、効果的な学習が行えるように、場や人の調整を行うことや、そこで展開されている保健活動を学生に分かりやすく伝えることは、実習担当者の大きな役目です。一方、学生一人一人の到達度を見極めて随時必要に応じた調整を行うのは養成機関の指導教員の役目となるでしょう。学校や実習受け入れ機関の状況によっても役割分担は様々ですが、できるだけ双方でコミュニケーションをとりながら実習を進めていくことが大切だと思います。
実習で必ず地域診断を行いますが、私もできているか自信がありません。「コミュニティ・アズ・パートナーモデル」「HIA」など、学生時代に習っていないモデルやツールを学生が使うことについて行けません。
保健師活動を通して、感じている質的データと、統計など客観的なデータを併せて地域の健康度をあげるために必要なものを考えるといった過程は、どれも共通していますし、今も昔もかわりません。実習担当になったことをよい機会ととらえて、地域診断について学びなおして、苦手意識を克服してみませんか。一人で学ぶより仲間と共に学びましょう。1月6~7日大阪で第6回日本公衆衛生看護学会学術集会があります。参加してみませんか!
http://japhn6.yupia.net/
現場は実習生に少しでも“いい実習”だったと思ってもらえるよう、プログラムを考えます。中でも家庭訪問の対象選定は、気を使います。見学後に、表情豊かに感想を述べる学生もいますが、なかなか言葉に出さない学生も少なくはないと感じています。同行した保健師は、特に責任を感じています。
家庭訪問や地域住民との対話を通じて地域を知ると言う体験は、実習ならではの貴重な機会です。見学を終えた学生同士では、「何気ない、たわいのない会話をしているだけかと思いきや、いつの間にか真剣な会話になり、ママが真剣に保健師さんに訴え始めた。私たちが帰るころには、安心できたという表情になったママを見て、保健師さんってすごいと思った」など感想を言い合う姿も見受けられます。そんな時、教員もうれしくなります。知識を押し付けるのではなく、対象の立場に立ち、対象を理解しようとする姿勢を、短時間の保健師と住民との対話から感じ取る学生もいます。家庭訪問の帰り道にでも、何気ない会話に秘めた意図を説明してあげてくだされば、より深い理解につながると思います。
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